【モチベUP】薬学部で有機化学を学ぶ理由

- 有機化学勉強してて意味あるの?
- 国試で化学は捨てよう。
- この勉強が何の役に立つか分からない。
と有機化学に対してネガティブな印象を持っている方は多いと思います。
逆に言えば、有機化学をやる理由が明確になれば勉強が続けられ、点数UPに繋がります。
今回の記事では、こうした化学に対するネガティブな悩みを解消し化学を勉強するモチベーションUPに繋がれば良いなと思っているのでぜひ読んでみて下さい。

薬ゼミ模試で化学上位0.1%をとった僕がお話致します。
(約2万人中23位)
薬剤師が医療現場にいる理由
⇒「医薬品」を通して患者さんの治療に貢献する

化学の話をする前に重要な事があります。
それは「なぜ薬剤師は医療現場にいる」のか考えることです。
医師の様に病気の診断ができる訳でもなく、看護師の様に(医師の指示の元)点滴を刺せるわけでもありません。
では、薬剤師の役割って何でしょうか。
その答えの1つは、医薬品を通して患者さんの治療に貢献する事です。
医薬品の理解
⇒臨床科目と基礎科目の両方が重要
薬剤師は医薬品のスペシャリストなので医薬品について誰よりも詳しい必要があります。
そして医薬品を理解するためには臨床科目(薬理・病態など)の知識だけでなく、基礎科目(物理・化学・生物)も重要になります。

薬って何に効くか覚えておけば良いんじゃないの?
確かにお薬が何(病気・症状)に効くかは重要ですが、どう効くかも同じくらい重要です。
この「どう効くか」の理解に基礎科目が大きく関わっていきます。

仮に「○○は△△の薬」って覚えるだけなら、Googleで調べる能力さえあれば誰でも薬剤師できちゃいます。(実際は免許が必要ですが)
バイアスピリンの休薬期間が7日である理由
⇒化学と生物で説明できる
バイアスピリン服用時は手術の7~10日前が適切だと言われています。
(休薬については「抗血小板薬、手術前はどのくらい休薬する?~休薬期間の決め方」に詳しく記載があります。)
これはなぜでしょうか。
実は化学と生物で説明できます。
まとめると、「バイアスピリンの休薬期間が7日の理由」は
1 バイアスピリンの投与により血小板のCOXが阻害される。
2 COX阻害作用は血小板の寿命分だけ続く。(7日~10日)
この2点から説明することができます。
これは薬剤が「どう効くか」理解していないと分からない例で、「バイアスピリンが脳梗塞を予防する」とだけ覚えている方にとっては宇宙人の会話です。

化学という科目があるから勉強する⇒×
医薬品の理解に化学が必要だから勉強する⇒〇
アスピリンの例から分かる通り、
「化学という科目があるから勉強する」ではなく、「医薬品の理解に化学が必要だから勉強する」と考えた方が勉強する必然性が見えてきます。
※この考え方は物理、生物も同様です。

臨床科目と基礎科目を繋げて勉強することが大事だよ!
薬剤師国家試験では臨床で必要な知識が問われている
ここまでの話を踏まえて国家試験について見ていきましょう。
当たり前ですが、薬剤師国家試験では薬剤師として必要な能力に沿った内容が出題されます。(下図)

化学もその例外ではなく、何なら9科目の内の1つです。
薬剤師国家試験に出題されるということはそれだけ大事なことが問われている
と認識しておきましょう。

これ必要?って問題もたま~にあるけど、それは目を瞑りましょう。
有機化学で他の科目の問題を考えてみる。
次に有機化学が実際に役に立っている例をご紹介します。

流し読みするだけで国試対策になるよ!
【物理】コレスチラミンと胆汁酸のイオン結合
コレスチラミンは、胆汁酸に吸着してコレステロールを下げるお薬です。
吸着と聞くと曖昧に感じるかもしれませんがイオン結合(静電相互作用)のことです。

胆汁酸は酸なのでアニオン性、コレスチラミンはカチオン性なのでイオン結合します。
これにより
- 胆汁酸の再吸収が阻害。
- 肝臓でのLDL受容体数の増加。
- LDL取り込み促進。
- コレステロールから胆汁酸合成が促進。
が起きてコレステロール低下に繋がります。
「イオン結合」とは夢にも思わなかったかもしれませんが、相互作用を構造で考えると理解しやすい一例です。

国試に出た内容だよ!
【生物】エキセメスタンによるアロマターゼ阻害
アロマターゼはテストステロンからエストラジオールへの反応を触媒する芳香化酵素です。
エキセメスタンはアロマターゼを不可逆的に阻害し、エストラジオールによる乳がんの悪化を抑制します。

エキセメスタンはステロイド骨格を持つので、アロマターゼと相互作用を起こし易いのは納得ですね。
もっと言うと、エキセメスタンのA環部分はテストステロンと類似しているのでアロマターゼの基質になり易くなっています。

生物は化学の知識を使うと覚えやすいよ!
例
- アミノ酸・タンパク質
- ビタミン
- ホルモン
- 代謝
など

【衛生】ビタミンCによる抗酸化作用
酸化防止剤として飲み物などに配合されているアスコルビン酸(ビタミンC)。
実はアスコルビン酸の抗酸化作用は有機化学で説明することができます。


「デヒドロ」は水素がなくなったという意味。
だからデヒドロアスコルビン酸は水素がなくなったアスコルビン酸って感じ!
さらに補足しておくと
水素がなくなるのが酸化、水素が増えることを還元と言うよ!
飲み物の酸化を例にアスコルビン酸がどのような働きをしているかを説明します。

お茶にアスコルビン酸が入っていることで本来酸化によっておこる腐敗が抑えられ、お茶の味の低下や変色を防ぐことができます。
このように食品添加物の理解にも有機化学の知識が役立ちます。

【薬理】アドレナリンとノルアドレナリンの作用の違い
アドレナリンとノルアドレナリンの内、アドレナリンβ受容体への親和性が高いのはアドレナリンです。
理由は、
アミノ基の水素がアルキル基に置換されているアドレナリンの方がアドレナリンβ受容体への親和性が高くなるから。
構造式を使って詳しく説明します。

ノルアドレナリンとアドレナリンの構造を見比べると、違うのは-NH2か-NHCH3かの違いです。
違いはこれだけですが、カテコールアミンでは次のような性質によってアドレナリンβ受容体への親和性が高くなります。
- アミノ基の水素がアルキル基に置換されている。
- ドブタミンのようにアミノ基に結合しているアルキル鎖が長い。
実際の臨床の例ではノルアドレナリンはアドレナリンα1受容体刺激を期待して低血圧の治療に用いられています。
アドレナリンはアドレナリンβ受容体刺激を期待してエピペン®としてアナフィラキシーショック時の治療薬として用いられています。
置換基の種類や数だけで受容体への親和性が変わるという有機化学が薬理に繋がる一例です。
【プロドラッグ】唯一経口投与が可能なノイラミニダーゼ阻害薬
ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)の比較表を載せます
成分名 | 剤形 | 服用期間 |
オセルタミビル(タミフル®) | カプセル ドライシロップ | 1日2回5日間 |
ザナミビル(リレンザ®) | 吸入 | 1日2回5日間 |
ラニナミビル(イナビル®) | 吸入 | 単回吸入 |
ぺラミビル(ラピアクタ®) | 注射 | 単回投与 |
ここから分かるように、経口投与可能はオセルタミビルだけということが分かります。
オセルタミビルが経口投与可能な理由は構造にあります。

オセルタミビルは投与後、肝臓のエステラーゼでカルボン酸に変換され活性体になりインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
このようにプロドラッグには有機化学の考え方が活かされているものも多いのでその重要性が分かります。
【メイラード反応】ダブルバッグになっている注射薬
ます、メイラード反応について簡単に説明します。
(既に分かっている方は読み飛ばしてください)
メイラード反応は、糖のアルデヒド(-CHO)やケトン(-CO-)がタンパク質やアミノ酸などのアミノ基(-NH2)と反応してシッフ塩基を形成し、そのシッフ塩基が褐色物質であるメラノイジンを生成する反応です。

具体例を挙げると
- ジャガイモの高温加熱で生成するアクリルアミド
- グルコースとヘモグロビンの反応で生成するHb1Ac
などがあります。
このメイラード反応は臨床でダブルバッグという技術で応用されています。
糖とアミノ酸が入った点滴バッグはメイラード反応が起こり、点滴の安定性が低下します。
それを防ぐためにダブルバッグ技術が用いられています。

Q&A
今さらだけど有機化学と無機化学の違いは?
厳密な定義はありません。
ただし一般的には、
- 炭素を含む化合物⇒有機化学
- 炭素を含まない化合物⇒無機化学
と考えることが多いです。
※ダイヤモンドが無機化合物とか例外はあります。
有機化学におすすめの参考書を教えて下さい。
迷ってるならこれ1択。
理由は薬剤師国家試験を実施している日本薬学会が作っている参考書だからです。
「ここから国家試験が出る!」という訳ではないんですが、非常に参考になります。
(何問かはこのテキストに助けられました)
化学系薬学は3冊に分かれています。(下表)
書籍 | 学べること |
化学系薬学Ⅰ | ・立体化学 ・基本骨格と反応 ・官能基の性質と反応 ・命名法 詳しい目次はこちら |
化学系薬学Ⅱ | ・無機・錯体 ・生体反応を化学で理解する ・医薬品の構造と性質、作用 詳しい目次はこちら |
化学系薬学Ⅲ | ・天然物化学化学 ・生薬学 詳しい目次はこちら |

スタンダード薬学シリーズは他の科目もあるからチェックしてみてね!
他おすすめの参考書は「成績上がる薬学生おすすめの有機化学参考書13選」をご覧ください。
まとめ
有機化学を学ぶ理由⇒医薬品の理解に必要だから
化学は他の分野よりも難しくて挫折しやすい分野ですが、克服できれば化学+他の科目での得点が可能なので化学をやる価値は十分にあります。
また、「医薬品の理解には化学を含む基礎科目が必要不可欠」なのでモチベーションが下がった時はぜひ思い出していただければ嬉しいです。

